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寮母心得帳(抜粋)

寮母心得帳(抜粋)

これは先代園長、錦織義宣(にしこり ぎせん)師が昭和46年4月に現在の養護老人ホーム長浜和光園を開設し、その翌年4月に施設内の職員のために記した手記『老人養護 ~私の施設経営~ 』より抜粋したものです。時代の変貌とともに福祉行政の大変革はもとより、利用対象者も少しずつ変わってまいりましたが、その後も福祉、とりわけ老人福祉に対する情熱と、人権尊重に対する基本理念は、職員の心の中で脈々と息づいております。
職名も、寮母から介護職員、指導員から相談員へと変化し、性別関係なく働けるようになりました。今では当たり前の事だと思うことでも、当時はなかなか理解されませんでした。そのため、今でも私たちは時折これを読み返しては初心に返り、日々の仕事に生活に生かしております。

温故知新

老人の昔話に耳を傾けよ。人類文化の遺産を現代に継承することを考えよ。歴史を否定するところに自己を否定することになる。温故知新なければ未来なしと心得よ。
老人の語らいの中に、知、情、意の調和のとれた人づくりの場としての自己を高めよ。人と人との新しい結びつきの中に、自己の職責を見出し、老人ホームの真の姿を追求せよ。

よい環境

環境は人をつくるという。寮母の及ぼす影響は極めて大きく、しかも決定的なものとなる。ことわざに「職場は一将の影」という。直接老人にふれあう寮母の人間的影響、そこに施設の環境づくりの基礎があり、伝統も生まれる。その重大な哲学と認識、心すべきぞ。老人が喜びを感じ、生きがいを感ずるその環境は、老人の主体性と寮母の人間性の美しき調和こそ、その源泉である。寮母自らが問題意識を踏まえて日々の営みに取組みゆく努力こそ。

寮母という職業

寮母は奉仕者ではない。あくまでも職業人である。その職業に徹するところに愛情が生まれ、奉仕が生まれ、すぐれた生活者としての生き方がある。老人を対象とする職業が寮母である。故に老人の心理を把握し、科学してゆく心、そこに職責を果たし得るのだ。老人と語り合え。協調する心を養え、祖父母に仕える心をもて。心身ともに健康であれ。

美しき女性たれ

朝夕鏡を見よ。容姿だけを見るものではない。人としての品性、そして感情、不満をのぞき、写し出して見よ。そして笑って見るがよい。鏡に向かって笑える日、笑えない日がある。笑えない日に接する老人こそ迷惑千万だ。じっとご覧、あなたの偽らざる姿が写る。そしてあなたの笑顔の及ぼす影響を考えよ。

介護

介護の範囲は広い。一日中が介護の連続であろう。介護は指導ではない。福祉と指導は基本的に異なる。介護は福祉を基盤としなくてはならない。1対1でつくり出す事において、肉親に代わる愛情と、一つの尊い生命を、いとおしみ、敬い、余生を大切にさせる心構え、そしてその愛情に喜びをいだき、処遇に感謝し、日々を楽しむところに老人は生きがいを感ずる。老人の長人生行路は、その人の美しい歴史だ。その歴史を尊重し、美しく思う想い出に耳を傾けながら介護するところに幸福感が満つであろう。介護の徹底こそ、老人ホームが楽しく美しい人生の花苑となるであろう。

一人のよさ

老人一人一人のよさを発見せよ。つとめて”よさ”を賞揚し、一人のよさがみんなのよさに、みんなのよさは、一人のよさに。頑固一徹と決めつけるな。頑固の中にその人の歴史が存する。頑固を利用するところに、処遇の技術を見出すことだ。

若さを保て

老人の中にあって老化してはならない。はつらつとした若さを保て。子供や若き人の来訪に老人の喜びがある。若さを活かし、若さをもって接すること。華やいだ若さの園、それが老人ホームでなくてはならない。

持ち物

入所時の持ち物調べ。これは古い、使いものにならない、捨ててしまえ、と事務的な言葉と処置。そのすてるものにその人の生活の思い出が染み込んでいるかもしれない。かつての喜び悲しみ、歎きが大きく根深いかもしれない。保管場所がないからとてそれは理由にならない。入所という転機に、過去を捨てさせるその可否の判断をあやまるな。不要なものにあるいは最愛の人の思い出、長い年輪が刻み込まれ、浸透しているかもしれない。入所者の心をいためないことだ。

愚痴の聞き役

愚痴は先ず時をかけて聞け。胸一ぱいに蓄積したしこりをほぐすことだ。そのしこりが愚痴だ。「またその話」こんな言葉はつつしめ。「もうそれでおしまいなの?」といえる余裕をもて。愚痴のかたまりという老人もいる。愚痴は愛情の枯渇にはじまる。じっくり心ゆくまで話し合え。しかも愛情をこめて。

老人同志のイザコザ

ああ言った、こう言った。これがイザコザのはじまりだ。そして寮母に訴える。一方的な解決はつつしめ。相手の立場も考えさせ、善悪、可否の判断を考えさせよ。しかも両者の立場を尊重して。寮母は大岡越前守になれ、奇知に富め。イザコザをリクリエーションとも考えよ。神経をとがらせず、感情的に走らず笑顔で訴えを聞け。むやみに老人を批判するな。

生活歴

老人の生活歴は、貧困・病苦・流浪・離別の中にも低俗・喧噪・怒号等々あらゆる不幸の歴史がつづられた一巻の小説であり、絵巻物である。人生の悲哀を感じ、人生の敗者となった人達が多い。生気を失い、活力をなくし、生きる力さえ失った人たちの生涯。その人たちに光と力を与え、慰めと明るさを与えるに愛情と誠実をもって接してこそ実現できる玄人のなせる業であろう。

痴呆(認知症)

老人は呆ける。今の出来事を忘れる。同じことを幾度も繰り返す。金品については確認を求めよ。書かせる、拇印を押す。証人を立てる。特に金銭の授受には万全を期せよ。思い込むことが多い。あくまでも納得させよ。しかしながら説得ではない。納得のないところに不信が生ずる。

宿直

老人の動態に留意せよ。災害時には人命の尊重を忘するべからず。急患等病人に対する配慮、医師、上司の命を受けよ。

勤務

寮母の勤務がもたらす影響の大なることに心すべきだ。勤務することは施設が動いていることだ。園の眼であり、手足であり、園の活力源だ。老人の体臭が滲みこんでいる施設、その換気扇は寮母の役割だ。思う存分手足を働かせよ。
老人一人一人について処遇と福祉の目標を定めよ。
実効を挙げるには、口先や表面だけでは駄目だと知れ。
老人を動かす力は何か、それを探求せよ。
いきり立ってみても動かし得ないものが必ず存する。それは何か、静かにそのものの発見に努める。

同僚先輩

女性だけの職場は、色々複雑な感情が交錯する。

  1. 論議はよろしい。善意と敬意を失わぬこと。
  2. 手伝いましょうと言える態度を。
  3. 若いからとて仕事が多いかも知れない。しりごみするな。
  4. 仲間割れをつつしめ。
  5. 新鮮な感覚と決意、創意と工夫、清冽な気風の源泉をお互いにつちかい合う。
  6. 先輩をしのぐ気概をもて。されど慢心を禁ず。
  7. 人の美質を賞揚せよ、人それぞれ個性あり、長短あり、理解の上に交わってこそ。
  8. かげ口をつつしむ。
  9. 常に若さをもて。

ことば

朝の「おはよう」の一語にその日がはじまる。ことばは水の如し。
ことばで角が立ち、丸くもなる。水の器にあるが如し、濁水にも月は映じ、清水には花も咲かず。老人に対することば。叱るべからず、命令せず、堅からず、愛情に富めるやさしきことば。あの一言が、ということもある。ことばは難、また易。

一隅を照らす

寮母の仕事は目立たない。忍耐の連続、かげの仕事だ。一隅を照らす静かな灯火、それが本領。品性を保ち、心事高潔、態度端正、寸刻を惜しめ、努力を重ねる。そこに美しさが存する。

園務

  1. 「計画、立案」に創意工夫をこらす。
  2. 「稟議」をうける。稟議とは計画立案を文書にして、所属の長を通じ、園長の決裁を受けることである。
  3. 「処遇」は正確敏速を期し一日渋滞すれば数倍の能力低下を来たす。
  4. 「記録、記帳」は必ず忘れずに、すばやく、文字は正しくていねいに、そして大切に保管する。
  5. ケース記録等秘密を厳守するものの保管は特に気をつけよ。

職員会議

  1. 園長を中心とする全職員の協力は、職員会議の正常活発な運営によって行われる。各職員は叡智を傾け、自由活発な討議をしなければならない。
  2. 司会は民主的に行われ、議題については事前に研究することが望ましい。
  3. 個人間の感情や主観的見解、年齢、性別によって価値が定められるものではない。
  4. 決定には充分討議をつくし、決定事項については充分に協力的であること。
  5. 無駄口をいう必要はない。不審な点は容赦なく正し、異なった意見を持つときは堂々と表明しなければならない。
  6. 会議中、雑談したり、漫画を書くようなことはいけない。
  7. 新しい事を実施する場合は、自己の自由に任されたことか、職員会議の議決を経るか、園長の了解を得ればよいか、慎重に考えて実施する。
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